これで、幾度目のお披露目になるのだろう。
見渡す限りの騎士・貴族・王族…ファティマ所有の資格を持つ人々を前に、
“アナベル・ガトー”はこっそりため息をついた。

『形式名TR−F−NJ  個体名 “アナベル・ガトー” 
タイプ M−L(男性・成人) シリアルno.AD1137
パワーゲージ A-A-B-A-A,  クリアランス  エクセレント
ヘア シルバーブロンド、 アイカラー ヴァイオレット アイコンタクト ラベンダー30%スルー
身長203センチ 体重75キロ(デフォルト値)
Dr.デラーズ指揮下のファクトリー製 アングロサクソン2型』

“ガトー”は製作されてから、かなりの歳月を経ている。
ファティマは、成人してからは全く外見の変化が無いため
正確な年齢はファティママイト(制作者)、
あるいはファティママイスター(調整者)にかからないとはっきりしない。
ゆえに著名なマイトの手にならない、工場出身のファティマにしては
“ガトー”はその名、その戦果をひろく星団に知らしめていた。

その最たるものは、前のマスターと組んでいたときだろう。
マスターの名は、トウヤ・ウラキ。
連邦の数ある騎士団のひとつ、アルビオン騎士団の一員だった。
ロンド・ベル騎士団のように有名でもなく、
辺境をひっそりと守るだけの騎士団であった…はずが、
突如として大掛かりな地域紛争に巻き込まれた。
その戦いのなかで、トウヤと“ガトー”は凄まじい…語り継がれるにふさわしいほどの
戦いぶりを見せた。

“ガトー”は思う。
トウヤには、どれほどの年月にわたって従っていただろうか。
少年から青年へ、そして妻を娶り子をなし、孫を抱いて笑うマスターを見られた己は
戦乱で主を失うことの多いファティマのなかでも、幸せなのかもしれない。…と。

トウヤの子は娘がひとり。騎士ではなかった。
婿を迎えて生まれた孫の男の子が、その騎士の血を継いだ。
その子は、コウ、と名づけられた。
トウヤ自身、MHに乗ることは少なくなり、騎士団のご意見番的存在になっていた。
コウは両親や祖父よりも誰よりも、“ガトー”に懐いた。
自然、“ガトー”はコウの子守をするようになった。

首が据わり、はいはいをし、つかまり立ち、歩き出し…
初めて喋った言葉が「ぁとー」であったのも、家族中の笑いを誘った。
“ガトー”を見ながら喋ったのだから、“ガトー”を指したのだろう。
普通は『まーま』なのにね。
喜びに包まれる家族のなかで、そうつぶやいた母親は、ほんの少し寂しそうだった。

幼稚園で、『大きくなったら何になりたいですか?』ときかれたコウは、
迷わず『“ガトー”のマスターになる!』と答えたらしい。
『よかったな、“アナベル”。あんなに好かれて!』
トウヤの豪快な笑いに、頭を抱えてしまった。
仕方なく、“ガトー”はコウと視線を合わせて、諭したものだった。
『ファティマは力のない騎士には決して仕えない。
だから、コウも私のマスターになりたければ、力ある一人前の立派な騎士にならねばならない』
『うん、きっとなる、絶対だよ!だから“ガトー”もオレを選んで!』

約束は、出来なかった。
“ガトー”の口元から、きし…と奥歯を食い締める音が漏れた。
ファティマを縛るマインドコントロールが、“ガトー”の承諾の言葉を奪っていた。
孫とファティマを見つめるトウヤも、沈痛な色をその老いた横顔に浮かべていた。

それから、わずかの間を置かず。
老騎士は長く過酷な人生を終えた。

『Seek out YOUR NEXT!(次の主を探せ)』

孫を頼む、とは言わず。
トウヤ・ウラキは息を引き取った。


全てのプログラムが解除され、“アナベル・ガトー”はファティマ管理局の預かりとなった。
正式に騎士認定を受ける前のコウにはファティマ所有の資格は無く、
“ガトー”もコウをマスターには選ばなかった。…選べなかった。

『“ガトー”、待ってて。絶対迎えに行くから、“ガトー”に認められる騎士になるから!!』
管理局のリムジンに乗り込んだ“ガトー”に、コウが叫んだ。
懐かしい、思い出の館が遠ざかる。

『“ガトぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーー!!”』

あのときの、必死に追いすがってきたコウの声が今でも耳に蘇る。


いくどか、管理局の斡旋で主人となる騎士を選ぶ『お披露目』に出はしたものの、
“ガトー”のヘッドコンデンサは、ちらりとも反応を示さなかった。
どこかが壊れている、などの異常も認められず、
検査担当のファティママイトも、これには首をかしげた。
“ガトー”は確かにマスターなしの状態になっている。だのに主人を選ぼうとしない。
ファティマは己にもっとも相性のいい騎士を主人に選ぶ。
基本的人権などほとんど無い彼らの、唯一の権利。
だから無理に主人を選ばせることなど、管理局といえども出来なかった。

そして…。



【では、お披露目を始めましょうぞ!】

主催者の宣言に、はっと“ガトー”はわれに返った。
壇上から降りていく少女型のファティマたちの最後に、ゆったりと降りていく。

「始めまして。ロンド・ベル騎士団の筆頭を務めます、アムロ・レイです。」
「剣聖騎士であられる…!ご高名はかねがね。」
ぺこん、と紅茶色の頭を下げる姿は、傍目にはとても星団最強騎士には見えない。
が、“ガトー”にはわかっていた。
敵に回すには、恐ろしすぎる男だと。
願わくば、わがマスターとなる騎士と敵対しないことを。

…「我がマスター」、だと?
では、この男…剣聖騎士でさえも主ではない、と…?
“ガトー”は愕然とした。

幾人かの騎士とも引き合わされ、いずれも主足り得ないと内心ため息をつくなかで
人ごみの合間に、見覚えのある…そう、あきらかに見慣れた騎士団の制服を見つけた。
ベテラン騎士と、見るからに初めてのお披露目で緊張し舞い上がっている新米騎士の二人組だった。
黒髪の新米騎士の、あの熱っぽく見つめる瞳……どこか懐かしいような。

「“お初にお目にかかります”、
アルビオン騎士団所属、コウ・ウラキと申します、ファティマ殿!」
「………コウ?あのちいさなコウだというのか!?」
“ガトー”に追いついていないとはいえ、ずいぶん背も伸びた。顔立ちも大人びた。
体もがっしりと鍛えてある。
光剣を携え、騎士団の正装に見違えはした、けれど。
自分を見つめる夜色の瞳は、あのちいさなころとちっとも変わっていなかった。

「…騎士になったよ。約束、守ったろ?」
緊張のあまりこぼれそうになる涙をこらえ、コウは“ガトー”を見上げた。

ああ。
今まで主を選べなかったのは…コウがいたから、か。

己の心に、すとん、となにかが落ち着いた。

「ただ騎士になっただけでは、だめだ。
コウ、貴殿は、我がマスターとしては、……まだ未熟!」
「“ガトー”!?」
悲鳴じみた声を聞きたくなくて、“ガトー”はきびすを返した。
アムロと視線があった。
にっこり笑われ、こちらの内心を見透かされたようで不機嫌になる。

その日も、“ガトー”は主を選ばなかった。
主たるものがいなかったのではなく、未来の主を待つために、選ばなかった。

「……待っているぞ、コウ。いつかお前が力ある騎士になる日を!」
そのときは、こちらから願うだろう。
『騎士殿、私をお選びください』と。

幸い、ファティマにはほぼ無限の時間がある。
あと少々待つくらい、何ほどのものか。

“ガトー”は額にあるクリスタル・ヘッドコンデンサに手を伸ばした。
コウがここに触れる、その日を待ち望みながら。

gomennt 
すみません、どうあっても
コウに「ガトー、おいで!!」とは
叫ばせられませんでした……(TT)<FSS主人公ソープとコウは同じ声優さん……(汗)


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