今は昔の物語………。



 王都、陥落。
 かつては大陸随一の賑わいを見せていた繁華街も、
 白雪の王宮と称された宮殿も、
 今は見るも無惨な廃墟寸前の姿をさらしていた。
 市街地の大半は、ほぼ無傷の状態ではあったものの
 進駐してきた連合軍の兵士や戦車が行き交う他は、猫の子一匹すら、この都にはいなさそうだった。


 「契約、完了!」

 男はラジオから盛んに流されている王都占拠の広報を聞くと、
 隣に立っていた兵士に騎士団の紋章入りフライトジャケットを投げ渡した。
 くすんだ熾火のような赤毛、子犬のような茶色がかったブルーの瞳、
 高く通った鼻梁、少し大きめで少し厚めの唇……
 一見『人好きのする陽気な青年』だが、
 ふとした表情に匂わせるセクシーな表情にくらりとこない女はまず、いないだろう。
 腰骨の覗くローライズのジーンズには、騎士だけが所持を許された光剣を下げている。
 騎士という人種は概して一般人より二回りほど体格に優れるが、
 彼ほど均整の取れた、しなやかな身体を持つ騎士も珍しいだろう。
 
 「…え?騎士様?契約……とは?」
 「お前、何も聞いてなかったの?
 オレは傭兵なの。で、傭兵ってのは契約が完了すれば次の戦場にいくもんなの!」
 「はぁ、ですが…行かれるのでしたら、上官殿に契約完了の報告をしなくてもよろしいのですか?」
 「いらねーよ」

 騎士はぴらぴらと手を振ると、
 止めてあったジープ型ディグ【小型イレーザーエンジン搭載車輌】に乗り込んだ。
 
 「王宮も国会議事堂も、TV局もラジオステーションも、空港・港湾も
 最重要拠点は全部押さえたから、王都占拠宣言が出されたんだろ?
 オレの傭兵契約は王都陥落まで。な?立派に契約完了してるだろ?」
 
 噛んで含めるような説明にも、若い兵士は納得せず尚も食い下がった。

 「しかしながら騎士様!宣言は出されましたけれど、上下水道局にガス関連施設、
 また発電所など我が軍の支配下にない重要施設も多々あります!」
 「……お前、ちょっと考えてみろ?
 それ全部、一般市民の生活に直結するライフラインだろ。
 そこで戦闘なんかしてみろ。施設に被害が出て、一般市民の生活に直撃してしまうだろ。
 あとで復興するにしても、すっげー手間暇かかっちまう。
 市民感情を逆撫でするなんて馬鹿な真似はするもんじゃない」
 「……わかります、ですが自分は一介の兵士です。
 上官からの命令があれば、それに従うだけです……」
 「……そか。……そうだったな」

 騎士は癖の強い赤毛をくしゃりと掻き上げると、
 軽く手を挙げてジープに乗った。
 砂埃を立てて遠くなるジープを見送っていると、兵士の横に誰かが立った。
 何気なくそちらをみやり、…兵士はたちまちしゃちほこばった。

 「司令官殿!?」

 慌てて敬礼する兵士の手にしたジャケットに、首都攻略軍最高司令官はちいさく嘆息した。
 鶴のように細身でありながらも、その眼光は猛禽の鋭さを失ってはいない。
 髪も眉も霜のように白くなったとはいえ、この司令官の威厳を損ねるものではなかった。
 歴戦の将軍の前に、若い兵士はただただ緊張するばかりだった。  

 「やはり行ったか……。君は、今の男が何者か、知っているかね?」
 「はぁ…それが、傭兵の騎士様、としか……」
 「ならば、覚えておきたまえ。
 あの騎士こそ……、ノマド・レイだ」
 「……げ!あの!?」

 兵士は絶句した。
 ノマド・レイといえば、星団のなかでも五指に数えられる騎士だった。
 ただ『強力な騎士』というだけでなく……その少々変わった性格でも知られていた。
 準剣聖位の『剛天位』の称号を贈られながらも辞退し、
 ファティマもMHも持たずに傭兵稼業に身をやつしていたが…その理由は表だって明らかにされていない。
 星団中の国家・騎士団がぜひとも、とこぞって迎え入れたがっているが
 ことごとくその申し出を断っている。

 「できることならば、この紛争解決後も留まっていただき、
 我が国の騎士団の筆頭騎士としてお越し頂きたかったが……。
 “流浪の騎士”を一所に止めるのは、所詮、無理な話であったか」

 戦塵にまみれた軍帽を深く被りなおし、司令官は踵を返した。
 若い兵士は、名残惜しげにノマドの去っていった方角を振り返り振り返り……司令官の後に従った。





 
 「あちゃー、………しまった」

 ノマドは思わずステアリングに突っ伏した。
 内乱とそれに続く列強連合軍との戦闘の爪跡は、王都の至る所で白煙を上げてくすぶっている。
 ノマドの目の前に広がる風景も、そうした一つだった。
 他の主要都市へ通じる、この大陸の大動脈とも言える主要高速道路。
 その入り口が、倒壊した高層ビルの瓦礫に押しつぶされ、完全に閉鎖されている。
 これではいくらディグがタイヤではなく地面から数10pほど浮上するホバリングで動いているからといっても
 突破はどう考えても無理だった。
 ジープに搭載されたナビゲーションシステムは王都侵攻前にデータ更新したばかりだったが、
 流石に最新情報までは軍事機密に触れるからか、対応し切れていなかった。

 「はぁ。……仕方ない、一番基本的な方法をとりますか」

 助手席のダッシュボードから地図を引っぱり出した。
 最も近い国境まで300q。かなりの遠回りになるが、ここから裏道を抜けて郊外へ、
 山間を縫うように海へ向かうルートがどうやら一番見込みがありそうだった。

 「問題はここだなー、……5q先に軍需施設、か。
 ここさえ通れれば問題ないんだろうけどな」

 ノマドは地図を弾いた。
 その箇所は一般市民の出入りは厳しく制限されていた広大な軍需区域だった。
 それだけに、道が寸断されていても
 平坦な荒野が続いている分、ジープで移動する分には問題がなさそうに思えた。
 独裁政権の支配下にあった施設だ、今更体制側の人間が残っているとは思えない。
 もし連合軍が手を回したとしていても、軍との契約を告げれば通してくれるだろう。
 きわめて楽観的な結論を下し、ノマドはステアリングを切った。



 行く手に、黒煙が立ち上っている。
 風に乗って、何かの焼けこげる醜悪な臭いも漂ってきた。
 吐き気を催す悪臭は、なにがしかの化学系薬品と蛋白質の焦げるような刺激性の強いものだった。
 ノマドは用心のためゴーグルを掛けスカーフで口元を覆った。
 軍需施設がどんな類のものかは判らないが、
 炎上でもしていて有害ガスでも発生していれば厄介だった。
 ノマドの推測は半ば当たり、半ば外れていた。
 問題の施設は、ファティマ製造工場(ファクトリー)だった。

 ファティマ・ファティス。
 究極の兵器・モーターヘッド【MH】は超絶な破壊力を持つが故に
 出力コントロールの調整もまた非常に困難なものになっていた。
 また、究極の戦闘人種・騎士の持つ力をそのままトレースしMHに伝えるにしても
 コントロールやバランスなどの動力補正が必要となった。
 だが、それは既存の演算機の限界を超えていた。
 そしてひとりの狂った科学者が、超高速演算処理能力を持たせた生体演算機を開発した。
 それが、ファティマ・ファティスと呼ばれる新たな生命体だった。
 美しすぎる容姿。
 騎士と同等の筋力。
 史上最高の演算機能、知識、知能。
 人を遙かにしのぐ寿命、不老の身体。
 それでも、貴重な兵器には違いない。
 開発にも生産にも維持運用にも、膨大な技術と莫大な資金のいる存在。
 それゆえ、彼女たちは苛酷な規制をかけられることになった。
 世界で活躍するファティマのおよそ9割が
 こうしたファクトリーで生産される『大量生産品』だった。
 
 
 それだけに、敵対勢力、もしくは進駐する連合軍に利用されるのを恐れ、
 工場自体を破棄するのは、ある意味で理解はできる。

 「……理解は、な……!」

 ジープから降り立ち、立ちつくすノマドの口からは
 呻きとも唸りともつかない、押し殺した怒声が漏れた。
 口の端からこぼれる赤い一筋の流れは、唇を噛み破った血だろうか。
 全身を細かく震わせるノマドの、その視線の先には……
 
 壊れた、糸の切れた、人形のような。
 流行遅れとなった、用済みとなった、マネキンたちのような。
 無惨にも命を絶たれたファティマたちが、うずたかく小山のように積み上げられていた。
 ちいさな育成用水槽の中には、赤子のようなちいさなファティマが浮かんでいるのさえあった。
 薬品の臭いは、ファティマ育成用の培養液だった。
 蛋白質の焦げる臭いは、破棄されたファティマたちのくすぶっている臭気だった。
 死臭でさえ、ファティマは人間と変わらなかった。

 せめて、焼いてやりたい。焼いて、弔ってやりたい。
 
 ノマドはその場を離れた。軍事関連施設ならば、どこかに武器庫ぐらいはあるはずだった。
 敷地内の工場作業区に足を踏み入れると…どこかからか、甲高い物音が響いてきた。
 躍起になって何かを壊そうとしているらしい。
 耳障りな、強化ガラスに刃を突き立てる金属音が断続的に反響する。

 「……なんだってんだ……?」

 ノマドは目を細め油断無く光剣に手を掛けながら、音のするほうへ向かった。
 
 通路の両側には、破損した円柱状の育成用水槽が並んでいる。
 床は水槽から流れ出した培養液でまだらに濡れ、悪臭を発している。
 照明は切れていた。
 ただ、天窓らしきところから一筋、傾き掛けた午後の日が埃の舞い上がる工房内に差し込んでいた。
 その光の届くか届かないかの所に、男が必死になって水槽に取り付いていた。
 ノマドの見ている前で、その水槽が傾いた。
 男のほうへ倒れ込む。
 ノマドは床を蹴った。
 男の腕をつかんで背後にかばう。
 水槽は通路の向かいに並ぶ、同じような水槽にぶつかって止まった。
 そして、ノマドは息を呑んだ。
 
 その水槽の中には、まだ、生きたファティマがいた。
 
 しきりに息をしようと、小枝のように細い手足で藻掻いていた。
 頭を振るたびにたゆたう髪は、闇夜のように黒かった。
 褐色の肌はチアノーゼを起こす寸前で、土気色を通り越して不気味な白茶けた色になっていた。

 「……あんた、何でもいいからバールかハンマーか、
 とにかく水槽を割れるような道具を持ってきてくれ、早く!
 彼女が死んでしまう!」

 背後にかばった男が、ノマドの肩に縋るようにして叫ぶ。
 よく見れば、服に付いている飾り紐は5本……マイト【制作者】の称号を許された証をつけていた。
 まだ学生といっても通るような細面の青年は、埃にまみれた髪を振り乱してノマドに迫った。
 
 「オレは騎士だよ。……ちょいと離れてな、ブチ破ってやる」

 青年はノマドの言葉に納得したのか、不安に満ちた眼差しのまま素直に場所を譲った。
 ノマドはその場から一歩も動かず、光剣の柄からも手を離した。
 無造作に、手首をひねった。
 たったそれだけで、水槽はかしゃりと、貝殻細工の壊れるような音をたてて割れた。
 もしこの場にもう一人騎士がいれば、ノマドが『真空切り』と呼ばれる技を使ったと見て取ったろう。
 剣聖剣技ともいわれるそれを手加減して、ノマドは水槽だけを破ってみせたのだった。
 たちまち培養液が噴出し、ノマドと青年の足元を酷く濡らした。
 ファティマも培養液と共に、勢いよく床に投げ出された。
 青年がノマドの背後から飛び出し、ファティマを助け起こす。
 ファティマの小さな口元から、透明なゼリー状の液体がこぼれ落ち……ちいさく、かはっと、喘いだ。
 褐色の肌に、見る見る生気がよみがえる。
 どす黒い紫色だった唇も、ふっくらとした珊瑚色を取り戻していく。
 
 「着せてやれよ」

 ノマドはTシャツを脱ぐと、青年に手渡した。




 武器庫からフレイムランチャーを持ち出して、あのファティマたちの元へ戻った。
 “生まれる”ことのなかったファティマたちに、火を掛ける。
 今まで感じていたものの比ではない刺激臭が立ち上る。
 だが、ノマドはもう、スカーフで鼻と口を覆う真似はしなかった。
 陽は沈み、夜の暗闇の中、炎はノマドと…青年とファティマをオレンジ色に照らし出した。

 「改めて…礼を言わせてくれ。君は、彼女の恩人だ」
 
 振り返れば、青年と、青年の後ろにノマドのTシャツを着たファティマが立っていた。
 華奢なファティマには、ノマドのサイズは大きすぎるらしく
 Tシャツがまるで丈の短いワンピースのようだった。
 こちらを見つめる翡翠色の瞳がひどく印象的で、ノマドは思わず目をそらした。

 「彼女だけじゃない。このファクトリーにいた、全てのファティマたち……
 こうして葬り弔ってもらって、感謝していることだろう」

 青年は、ノマドと並び立って炎を見つめた。
 埃に汚れてくすんでいるが、癖のあるその髪はおそらくは金髪だろう。
 ノマドより数段明るいアクアブルーの瞳は、沈痛な色に沈んでしまっている。
 貴族的な雰囲気に熱をあげる女性も少なくないだろう。

 「私は、ジオン・ズム・ダイクン。ファティママイトだ。
 1年前、アカデミーを卒業したばかりで…ここの工房で研鑽を積んでいた。
 王都陥落の報を受けて、ファクトリーを預かるロニー博士が総退去を決定したとき、
 一部の先走った莫迦が育成中のから成人寸前のものまで
 全てのファティマ破棄を指示して……作業員も一人残らずそれに従った。
 その結果が、これだよ。
 つい今朝方のことだった。
 彼女らの無念を思うと……やりきれない」

 ノマドは、沈黙を守った。
 限りなく人間に近く、そして遙かに人間より優れた「新たなる人類」。
 生物の頂点という地位を脅かされることを恐れた人間たちによって、基本的人権さえ与えられず。
 時には使い捨てられ、時にはまともな扱いを受けられず、
 ……そして、時には、人間の……性的欲望の、はけ口にさえされる。
 ノマドは、そんな打ち捨てられたファティマたちを数多く見てきた。
 『兵器』としてでも大切に扱われることなく散っていくのに比べれば、
 まだ、なにも知らないうちに葬られる方が幸せでは…ないのか。

 「……博士、モーター音です。軍乗用ディグ。3分12秒後に、到着します」

 澄んだ湖のようなファティマの声に、ノマドはフレイムランチャーの銃身を下ろした。
 ごく自然に、ファティマがそれを受け取った。
 やがて、ファティマの言葉どおり、軍乗用ディグが彼らの前に止まった。
 降り立ったのは、つい昼間までノマドが契約を結んでいた軍の高官、だった。
 階級章は中佐。
 塵一つ付いていない制服、埃一つ汚れていない軍靴に、ノマドはひそかに眉をひそめた。

 「おお、これはノマド殿!最後にファティマファクトリーの確保に動かれたとは!
 これは成功報酬に上乗せせねばなりませんなぁ!」

 見え透いたおべっかに、ノマドは軽く唇の端をつり上げた。
 酷薄な笑みはこの男に相応しくなさそうで…不思議と馴染んでいた。
 皮肉げな笑みにも気付かず、中佐はノマドの後ろに控えるファティマに目を止めた。
 暗がりでも、培養液の汚れが取り切れていなくとも、
 埃汚ればかり目立つTシャツだけをまとっていても、
 ファティマにだけ許された、至高の芸術品とされる美貌は隠しきれなかった。

 「……これはいい!このファクトリー産のファティマか!?
 よし、戦利品として接収する!……来い!」

 中佐はノマドの脇をすり抜けファティマへ突進すると、強引に手首をつかんで引き寄せた。
 好色で下卑た笑みに、ファティマは怯え震えた。

 「お待ちを。私は彼女の制作責任者、ジオン博士です。
 工場が閉鎖された以上、彼女は私の預かりとなります。
 よって、軍への接収・引き渡しは承服いたしかねます」
 「……何?」

 博士の申しように、中佐の顔がたちまち怒りのあまり蒼白になる。
 ろくに鍛えてもいなさそうな体格からすると、
 どうやら戦場に立つことなく家柄の良さだけで出世した類の人間らしかった。
 ジオン博士のような、年若い……青臭い若造にたてつかれるなど
 経験はおろか、想像すらしたこともないだろう。

 「は、敗戦国の人間が何をいうか!文句をいうなら容赦はせんぞ!」
 「我らはいかなる体制、いかなる国家にもよりません。
 完全中立、それが我々マイト・マイスターのありようです」

 ジオンは、鮮やかに言い切った。

 「く……!かまわん、奴らを討て、撃ち殺してしまえ!」
 「いまどきどこの時代劇だよ…その台詞」

 ノマドはあきれた。
 だが、護衛兵は上官の命令には絶対服従。躊躇いながらも銃口を向けてきた。
 軽く肩をすくめると、…ノマドは地を蹴った。
 兵士たちは目を見張った。ノマドの姿がぶれた、いやあれは!

 「………八つ身分身、だと!?」

 8人のノマドが、次々と銃をたたき落とし護衛兵を気絶させていく。
 ほんの一瞬の出来事に、中佐は何が起きたか理解も出来ていないだろう。
 あまりのことに、中佐の意識がファティマから逸れた。その隙に
 ファティマは手をふりほどき、ノマドへ駆け寄った。

 「………マスター……!」

 ファティマに許された、たった一つの、絶対的な言葉。
 その言葉と共に、彼女はノマドの胸へ飛び込んだ。 
 


 「『マスター』?……『マスター』、だと……!?
 認めん、我輩は認めんぞぉッ……!!」

 激昂のあまり、中佐は拳銃に手をかけた。
 だが、それは全く予期しなかった方向からの銃撃にはじき飛ばされた。

 「…我輩に銃を向けるとは誰だッ!」
 「見苦しい真似はよさんか、中佐」
 「しっ、司令官殿!?」

 細く硝煙を上げる銃を構えたまま、老司令官は苦々しく吐き捨てた。
 その後ろには、ノマドが最後に声をかけた兵士や彼の部隊が控えていた。
 
 「見苦しい真似とは心外であります!このファティマは戦利品、我が軍に帰属するものと…!
 小生は本陣へ届けるまでの間、このファティマを預かるつもりで……」
 「黙れ!ファティマ殿はノマド殿の元へ行く意思を示された、
 それで充分だ」
 「しかし!披露目はどうなるのです!こういった場合、通常ならば我が軍…
 あるいは本国でなされるべきでありましょう!?」
 「あー……君はもう黙っていたまえ。
 騎士級以上の見届け人が3人以上いなければ略式披露目としても認められないが…
 ファティマ所有の資格を持つ騎士殿がいるのだ。
 騎士殿を得るのがファティマの務め、……違うかな?ファティマ殿?」
 「いいえ、司令官閣下のおっしゃるとおりですわ」
 「ならば、ファティマ殿の身柄はノマド殿にお預けしよう。それで丸く収まるではないか」

 老司令官は、あたたかな眼差しで3人を見つめた。

 「後のことは、儂にまかせよ。正式認定ならば、後日、改めて行えばよろしかろう。
 ……さあ、行くが良い」

 ノマドたちは、深々と頭を下げた。





 ジープは、荒野に伸びる道をひた走った。
 やがて、右手に山岳地帯が、左手に広大な海が見えてくる。
 夜明け間近の薄明かりの中、助手席のファティマは
 潮風にあおられる黒髪をしきりに気にしていた。

 「国境を越えたらすぐにでもファティマ用の服を探すから、
 今はオレの服で勘弁してくれ。
 ……そういえば。まだ、あんたの名前を聞いていなかったなぁ。
 なんてーんだ?」
 
 ファティマは、その言葉にふわりと笑った。

 「“La・La・h”。“ララァ”と申します。
 騎士様、……ノマド様、いえ、マスター。
 博士にクリスタルをつけていただいたら、どうぞ私をお選び下さいね」

 “ララァ”は、真円にカッティングされた翡翠色のクリスタルを大切そうに両手でくるんだ。
 瞳の色と揃えたヘッドクリスタルは、額の生え際中央につけてもらうつもりだという。
 
 「わかってるさ。
 ……んにしても、だ。もしかして、オレって、すんげー拾い物しちまった?」
 「うふふ……」

 “ララァ”は忍び笑いをもらしながら、後部座席をのぞき込んだ。
 若きファティママイト、ジオンは緊張感から解放されたせいか
 微かな寝息を立てて熟睡していた。
 このぶんだと、暫くは何をしても起きないだろう。

 「これから、どこへ?」
 「そーだなぁ……とりあえず……」

 ノマドは、アクセルを強く踏み込んだ。

 「お日様の昇る方へ、いってみるか!」
 「イエス、マスター!」

 夜明けは、もう、すぐそこまで待っていた。

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