吹きすさぶ砂嵐。
 ルナル地方の荒野のなかでも、
 とくにMHや実剣の原材料となるガンダリウム鋼の原石を産出するこの鉱山一帯は
 酷い砂嵐に見舞われることでも名高かった。
 古には『風の魔物』が住むという、『砂鬼魔城』の伝説さえあったという。
 確かに、奇岩の間を抜ける砂嵐は一種独特のうなり声めいた音を立てていく。
 強風は刻々と大地に風紋を刻み、時には道すら造り替え旅人を惑わせる。
 GPS装置のない時代なら、なるほどこの一帯に住まう魔物が旅人を捕らえ喰らうと考えられても可笑しくはない。
 ……現代でさえ、ここらで行方を断つ旅人や定期バスも、未だにいるのだ。
 細かなガンダリウム鋼の粒子を含んだ砂嵐は天然のチャフとなり、
 酷いときはミノフスキー粒子を分厚く撒いたのと変わらない状態になることすらある。
 一般のセンサー類では歯が立たない大自然の魔物が、ここには潜んでいるのだ。

 それでも、魔物……砂嵐がぱたりときれいに止む日も一ヶ月に一度はある。
 その日を見計らい、街道ぞいにあるちいさな村に市がたつ。
 近隣の農村からは農作物や手作りのバターやハムなどの加工品、手織のケープなどの手工芸品、
 鉱山からはちょっとした細工物や原石も時には持ち寄られる。
 
 「一斤多少銭?」
 「五毛」

 異国の言葉すら、コウの耳には快い。片言の言葉と精一杯の身振り手振りでおかみさんたちとやりとりすれば、
 おまけだと揚げ団子まで持たされるのが照れくさくもあり、嬉しくもあり。
 
 「えーと、ジャガイモとトマトと……タマネギに……ニンジンはいらないや。あとは……あ!」

 メモに夢中になりすぎて人にぶつかってしまう。ジャガイモとリンゴが道に転げ散った。

 「ごめんなさい!怪我ありませんか!?ちゃんと前見ていなかったから…」
 「余所見なら私もよ、謝るのはこちらのほうこそ」

 相手は笑って謝罪を受け入れると、散らかしてしまった荷物を拾いはじめた。
 見とれている場合じゃなかったとコウも慌ててならう。
 それにしても、と。コウはちらりと相手を伺った。
 若い女性だった。年のころならコウと同じくらいか、少し上の。
 背はコウよりも頭半分ほど低く、華奢すぎるほど細い。
 肩で切りそろえた砂色の髪は、もしかすると金髪かもしれない。髪の色を変えてしまうほど、ここらの砂嵐は酷いのか。
 それにくわえ、冬の砂漠の空のような、薄く青い瞳。
 ここら一帯の人々はコウと同じ、黒髪黒目の人が殆どのそのなかにあって、彼女は一種異質な雰囲気を漂わせている。
 まるでファティマだ。M・少女型……いや、L・成人型くらいの。
 けれど、いくらこの女性が異質なまでに美しいと言っても、ファティマではないだろう。
 くるくるとよく動く快活な目。生き生きした表情にきびきびした仕草。
 そのどれもが、マインドコントロールを施されたファティマにはありえないものだった。
 
 「旅の……騎士様、なのね」
 「あ、……え、はい、そうです」

 コウのまとっている埃よけのマントの下から、騎士の証である光剣の柄が覗いていた。
 彼女はそれを身体の後ろに押しやるように微調整して、その上から光剣の形を隠すようにマントを払ってくれた。

 「アドバイス……いえ、忠告しておくわ。
 ルナルの大地を行くなら、この先、光剣をハッキリ判るように下げたり、
 騎士団の徽章を見せたりしないことね。
 もしもそんな真似してご覧なさい?その次の日から、貴方を倒して名を上げようなんて連中から
 マークされて『手合い』を申し込まれまくるわよ……アルビオン騎士団の新鋭騎士さん?」
 
 何気ない仕草を装って、襟元の徽章も目立たないようにマフラーをかけてくれる。
 
 「上手い立ち回りかたをおぼえることね」

 セイラさーん、と遠く呼ぶ声に女性が応えた。
 つられてそちらを見れば、まだローティーンの少女がエレカの助手席で手を振っていた。

 「連れの子を待たせているから、これで、ね?」

 女性は紙袋を抱えなおすと、エレカに乗ってバザールを去っていった。
 ジャガイモの袋を下げて見送りながら、コウは襟元をつかみ、口元を固く引き結んだ。
 バザーの片隅で、暗く、目を光らせた男たちに気付くこともなく。

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