衝突 1




 ドーリーのコクピットから、青空が見えた。
 今日のルナル地方は、ひどく機嫌がいいようだった。
 乾いた砂を巻き上げる強風は収まり、陽射しこそ強いが過ごしやすい日になりそうだった。
 いつになく落ち着きのないコウに、“ガトー”は黙ってミルクを多めにしたカフェラテを入れてやる。二人の間の気まずさは薄れ、かわりに換装とマイスターへの期待感と緊張感がコウを包んでいる。
 落ち着きを促すためにほんの少しだけブランデーも垂らしたが、意図とは逆効果をもたらしたようだった。
  
 そして、ビーコンが小さく鳴った。

 「予定時間、ぴったりだね」
 「システムオールグリーン。ドーリーのコンシールを解除」

 “ガトー”の指が滑らかにドーリーの制御システムを操っていく。
 ちいさく地表が揺らめいたかと思うと、荒野の真ん中に突如巨大トレーラーが出現した。
 『手合い』や『野試合』の横行するルナル地方にあって、
 不必要な戦闘を避けるべくドーリー(MHキャリアー)を隠すのはごく当然のことだった。
 視界の彼方でも、空間がゆらめいた。
 通達された刻限きっかりにトレーラーもコンシールを解除して現れた。
 掲げられた騎士団の紋章に、コウはちいさく頷いた。間違いない、あれが指令にあった補給物資と整備小隊、そしてマイスターを乗せたトレーラーだ。

 「行ってくる。“ガトー”は残ってて」
 「了解した」

 騎士団のマントを羽織る主の後ろ姿には、もう落胆の色など見受けられなかった。…ように、“ガトー”には見受けられた。



 コウは一旦ドーリーを降りた。
 砂嵐はおさまっても、ときおり吹き荒れる強風にあおられた砂が目や口に容赦なく入り込んでくる。
 けれどあちらのトレーラーの主も降りてきているのだ。礼儀として、こちらも降りないわけにはいかない。

 「初めまして、アナハイムから来ましたマイスターのニナ・パープルトンですわ」
 「整備担当のモーラです、よろしく」
 「よろしくお願いします、僕はコウ・ウラキ。試作機GP01“ゼフィランサス”のテスト担当騎士です」
 「ええ、聞いています。…修行中だとか?本来でしたらもっとベテランの方にお願いしたいところでしたのに。
 ああ、でも…」

 肩までの金髪をかるく波打たせた、どこか幼さも残す女性だった。そのくせ、口調は容赦ない。もしここにコウの悪友・キースがいれば、肩をすくめて口笛の一つでも吹いているところだ。
 “4本の飾り紐を許された”騎士。ニナ・パープルトン。
 コウの所属するアルビオン騎士団とは協力体制にあるアナハイムラボラトリーに籍を置く、MHマイスターだった。
 新しい世代のマイスターとして注目されている、期待の才媛。
 そのニナは、コウの後ろをしきりに気にしていた。

 「……あの、…パートナーのファティマは?」
 「ドーリーに残してきました、緊急事態に備えて」
 「そう……。ともかく、ファティマの戦闘経験は貴重です、
 貴方ではなく経験豊かな貴方のファティマとMHの相性こそが今回の主眼というのを忘れないで下さい」
 「な……!」
 「ああもう!嫌になるわ、口の中にまで砂が入ってくるなんて!なんてところかしら!
 街道沿いに突っ立っているなんて変な勢力にモニタリングして下さいとお願いしてるのも同然よ、移動します」

 ニナは口元をスカーフで覆いながら言い捨てると、コウの方は目もくれずトレーラーへ戻っていった。
 あっけにとられるコウに、大柄なモーラ(それこそ騎士のように頼もしい体格の女性だった)が
 快活さと申し訳なさを絶妙にミックスした苦笑をうかべて肩を叩いてくれた。
 今日は風も大人しくて過ごしやすいなんて、声をかける気にもなれなかった。

 ……お互いの第一印象は、どうやら最悪のようだった。 
   
 

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