衝突 2 |
ナビに従い街道からの分かれ道を辿れば、廃墟と化した村があった。 そのさきにはガンダリウム鋼の鉱山跡が表示されていたから、かつては貴重な鉱石の産出で潤った村だったのだろう。 くすみきった建物の壁を払えば、埃の下から思いがけないほどの鮮やかな色が現れる。 目を上へむければ、この地方独特の様式化された花々のモザイクが軒先を飾った跡が見て取れた。 山肌にはりつくように広がった家々は細い小径で繋がり、 車は砂嵐の影響を避けるためか地下に張り巡らされた坑道を転用したトンネルを通り抜けていたようだった。 市が立ち賑わっただろう広場も生活用水だっただろう水路も泉も、今は半ば砂に埋もれていた。 そんな村を通り抜けた先に、鉱山跡はあった。 蟻の巣のように、地下深くまで伸びまた縦横に張り巡らされた坑道。 豊かな鉱脈から掘り出された鉱石は一旦集積所に集められ、精錬所に持ち込まれ精製されたのだろう。 その広大な空間にドーリーとトレーラーを搬入し入り口のハッチをロックしてしまえば、 微細なガンダリウム鋼の粒子を含んだ砂嵐は完全に遮断される。 照明のシステムは生きているのか、白銀灯は灯ってくれるおかげで必要最低限の明るさはある。 砂塵除去や洗浄、装甲換装を行うには必須の環境が確保され、 街道からは適度に離れている上、廃鉱となっているおかげで人目にも付かない。急場しのぎの整備工場としてはまずまずの場所だった。 天蓋を全開にしたトレーラーの荷台をリフトアップすれば、即席のハンガーになる。 そこへ背をもたれさせるように横たわりコードやチューブを取り付けられたGP01は、まるでベッドに寝かしつけられた病人のようだった。 機械油にまみれたつなぎの上を脱いで袖を腰に巻き付けながら、モーラはニナのいるモニタ用機材の山に歩いてきた。 「そっちはどう、モーラ?」 「砂の洗浄をしないと話にならない。話には聞いていたけれど、クロムの粒子がこんなにちいさくてやっかいなんてね。 装甲の隙間から入りまくって、電装系も危なかったよ。第一次装甲をとっぱらって徹底的に洗浄かけないと。換装はそれから。 それでもウラキ少尉が手伝ってくれるから助かる。3本線の整備士試験受けてないのが不思議なくらい手際がよくて」 地中深くに伸びる坑道ならば肌から骨に染みいる冷気さえ感じるが、 灼熱の外気と隣り合う集積所の気温は、締め切られた場所でもあるのも手伝って、昼に向けて鰻登りに上昇する一方だった。 ニナも機材のセッティングの手をとめて、こめかみをつたう汗をハンカチで拭いた。 「変わってるのね、整備関係までやろうって騎士なんてそういないわよ」 「そうだね、ニナ、あんたみたいに騎士でマイスターなんてのもそういないけれど。…ね、どうしてマイスターになろうと思ったのか、聞いていい?」 「…本当はね。マイトになりたかったの。…たった一人の、あの人のためのMHを作りたかった。でも…私にはマイトの血は出なかった。 だから、マイスターの道を選んだの」 「乙女ねぇ」 「もう!なんとでもいってちょうだい!」 くすくす笑ってのけるモーラに、ニナは赤くなって肩をばしばし叩いた。 大概の騎士は最低限の調整(チューニング)まではやるものの、微細なプログラムやコントロール系の整備となると整備担当のメカニックやファティマ任せにしてしまう。 無論、それで全く問題ないのだ。もともと騎士とMHの間を取り持つ生体インターフェースが“ファティマ”なのだから。 「それで、ニナの方こそどうなのよ?」 「ウラキ少尉のパーソナルデータと今までのデータを抜き出して数値化しないと。ファティマの協力がほしいのに」 「“ガトー”様だっけ?少尉のファティマ。生涯MH撃破数144機のハイスコアを持つ強天位の剣豪トール・ウラキ卿のパートナー…」 「まだ、会ってくれないのよ」 「少尉が意地悪してるわけじゃないんだろ?“ガトー”様はあたしたちなんかよりもよっぽど経験豊かなんだ、わかっておられるんだよ。 ちゃんと必要なときにこっちに来て下さるさ。…ニナ、あんたのファティマは?」 「私のパートナーはエトラムルの“ハロ”よ。だからこっちには連れてきてないの」 「そう」 不定形ファティマ、エトラムル。MHコントロールに必要な大脳と小脳、 酸素を取り込むエラだけの…まさに『生きたコンピュータ』であるだけの存在。 常に培養液の助けをかりなければ生き延びられないこのエトラムルを、テム・レイ博士は画期的な方法でより安全に、しかも扱いを用意にした。 彼らの収まるコクピットを、まるごと培養液で満たされたカートリッジ式カプセルにしたのだ。 対ショック・対レーザ性に富んだ、MHと同じガンダリウム合金で作られた外殻の形状は最大容積を得られる球体となった。 かつカプセルの直径は50センチほどと、エトラムルユニットとしては非常にコンパクトになっている。 細やかな意志疎通をより容易にするための音声応答システムとちいさな発光器をつけてみたところ、 単なる扱いやすさの向上のみならず、発光器がまるで『ペットロボットのような目』にも見えることから親しみやすさまで生まれ 今では何かと手の掛かる人型ファティマよりも積極的にこの“ハロ”を相棒にと望む騎士も少なくない。 ニナは今回、MHは国元に置いてきた。となれば、“ハロ”もMHと共に置いてくるしかないのだ。 テム博士は次なる課題に、この“ハロ”の『自律意思による移動とより精巧な意思表示』を掲げているというが。 「“ガトー”さまのケミカルチェックもやったほうがいいんじゃないかって、本国にファティママイスターの問い合わせもしたし よかったらニナのパートナーもと思ったんだけど…余計なおせっかいだった?」 「ううん!嬉しいわ、ありがとう。私たち途中合流だったでしょ。詳しい連絡できなくてごめんなさい」 「いいよ。そのうちニナの“ハロ”にも会わせて。 ……おや?」 モーラがMHをふり仰いだ。ニナもつられて、モーラの視線を追う。 MHには二つコクピットがある。 一つは頭部のファティマコクピット。これは人型でも不定形でも変わりはない。 幾重にも対ショック構造を張り巡らせたコクピットで騎士の力を受け止め、MHへ伝える。 そして騎士は胸部のコクピットでMHをコントロールする。 常人を遙かに凌駕する騎士の動きはファティマの演算サポートを受け、MHにフィードバックされていく。 だからこそ、MHは『究極の兵器』たりえるのだ。 MHの登場で戦車はサポート役に回り、戦闘機は姿を消し、歩兵はほとんど犠牲をはらわないようになっていた。 その騎士側コクピットに、人影が動いたのだ。 「ウラキ少尉?なにを?」 「ああ、気にしないで。こいつには僕なりのプログラムを打ち込んでいるんだ、ちょっとその改訂するだけだから」 「何ですって!」 ニナは血相を変えてコクピットまで駆け上がった。 |