親指より二回りほど太い木の枝を、親指より少し長めに切った。
年輪の中心に工具で穴を開け、ねじを切る。完全には切らない。
家具や工芸品を組み立てるようにしっかりねじ穴を切ってしまうと、目的の『音』は出せなくなる。
穴にふっと息を吹きかけて、木くずを飛ばす。
ねじ穴に穴の直径より少し細めのボルトを差し込む。
頭に輪のついたボルトだから、輪にひもを通せばキーホルダーやペンダントみたいに身につけられる。
こんなもの、かな。
アムロはちょっと首をかしげた。
手本もないまま人から聞いたまま初めて作ってみたものだから、
善し悪しは正直言ってよくわからなかった。
ためしに軽くボルトを回してみた。

ピチュピチュ、キュイキュイ、チチチチチ……

小鳥のさえずりに似た、いや小鳥のさえずりそのものの音が鳴った。
優しい音だ。
ボルトのねじり方にもうちょっとリズムを付けたり強弱をつけたりすれば、
きっともっとさえずりそっくりになるだろう。
アムロは自分でも口元がほころんでいくのがわかった。

素人が作ったにしては、上出来かもしれない。
ちょっぴり自画自賛してみる。
ボルトの抜け落ち防止のキャップをはめれば、アムロ・レイ製バードコール試作第一号の完成、だった。
まっさきに見せてみたい相手なんて、もちろんあの男しかいない。
アムロはちいさな『おもちゃ』を手に、作業をしていたテラスから庭に降りた。

風に揺れる、気の早いコスモスの花。
一週間前よりも高く青く澄んでいる気がする、空。

地球にいるんだ、なぁ。

実感するのは、こんな時。
そしてこんな時は、あの男は決まってあそこにいる。
アムロが確信を持って足を向けたのは、村はずれの丘の大きな木。
あと二月もすれば村の収穫祭の舞台となる丘も、今はただ村を一望できる憩いの場。
畑と牧場と、遠く森と湖の広がる絵本みたいな風景。
ふわふわのしっぽを振り立てたリスがどこからともなく飛び出してきて、
ついてきてとばかりに丘へ駆けていく。
かわいいよな、とほおを緩ませて丘の上へたどり着けば。

ほぉら、やっぱり。

心地よい木陰で、読みかけの小説を胸に伏せて眠る男にちいさく笑う。
まわりに小鳥たちまで侍らせて、さえずりを子守歌代わりにして。

さて、どうしようか。

ちょっと悩んでいると、アムロの気配に気づいたのか
小鳥たちは一斉に羽ばたいて去ってしまった。

逃げられちゃったな。驚かせたつもりはなかったんだけど、残念。

アムロは男の隣に座った。そっとのぞき込んでも、どうやら眠ったままのよう。
それなら、代用品で悪いけど。
手の中のバードコールを持ち直して、ゆっくりとねじを回してみた。

ピチュピチュ、キュイキュイ、ちちちちち………。

作りたてのバードコールは、巣立ちたての若鳥のようなぎこちない声で歌った。

「……あ、むろ?」
「ごめん、起こしちゃったか。やっぱり代用品じゃだめか」
「いや。君だから目が覚めたんだよ」

君の『声』だから。

起き上がった男からふわりと柔らかなキスをもらう。

「なんだよ、それ」

ふん、とそっぽを向いてみても、
アムロは頬が熱くなっていくのを止められなかった。



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